選挙供託金の代替

選挙の供託金とは?

今の制度では、国会議員の選挙で候補者になるためには、選挙区候補で300万円、比例代表候補で600万円の財産(現金や国債)を国に預けなければなりません。得票率が没収点(衆議院選挙区では投票総数の一割)に満たなかった候補者は、預けた財産を没収されてしまいます。


この制度は、旧憲法下の大正14年(1925年)に公布された改正衆議院議員選挙法で導入されました。この法律は、納税額による選挙権(投票する権利)の差別を止め、選挙権については財産や収入で差別されない、普通選挙を導入するものでした。しかし、その一方で被選挙権(候補者になる権利)は制限されてしまいました。


憲法が禁じている不当な差別

今の憲法では、国会議員の資格について教育や財産によって差別することも、人種や性別による差別と同様に禁じています。候補者になることを財産や収入によって制限することは、人種や性別による差別と同じように不当なのです。


第44条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。


参政権が侵害されている

財産によって立候補を制限することは、有権者の選ぶ権利を制限することであり、そもそも普通選挙制や代議制の理念とは相容れません。欧米の主要国では全く求めていないか数万円程度とされているので、日本では国民の参政権が十分に認められていないことになります。


憲法の規定に反して候補者になる権利を制限している状態を正さなければ、国民は本当の主権者にはなれません。財産や収入によって立候補が妨げられないようにすることは、有権者の選択する自由を守り、普通選挙の目的を達するためにも欠かせないのです。


何のためにある?

選挙供託金の目的や理由は法律に記されていませんが、様々な俗説があります。例えば「選挙公営の費用を負担させる制度である」という見方があります。選挙公営は候補者の選挙運動のために国などが費用を負担している便宜で、選挙公報や選挙運動用ハガキ、ポスター掲示場などがあります。


しかし、選挙公営は選挙の結果が候補者の財力によって決まってしまうことを防ごうとする制度ですから、その費用の負担を候補者に求めては辻褄が合いません。選挙公営を使わなくても供託金が減免されることはありませんし、選挙区の大きさが違う衆参の選挙区で同じ額を求めて、比例代表候補に倍の額を求めていることからも、この見方は適切ではないことが分かります。


色々な誤解

他に「候補者が本気であることを保障するため」「売名を防ぐため」という見方も、よく聞かれます。しかし、実際の選挙を見てみれば、候補者が本気であることを保障できているとは言えないでしょう。一般の人が売名をすることのメリットも通常はありませんし、選挙公報などで商品や企業を宣伝することは禁じられているので、経済的な利益を得られる可能性はほとんどありません。また、利益とは関係なく多くの人に名前を知ってもらうことが目的になる人がいるとしても、それが成立するのは供託金で候補者を制限しているからです。


「供託金はカンパによって賄うものだ」という人もいますが、これも誤解で、カンパで供託金を集めた事例はほとんどありませんし、選挙供託金の募ることが事前運動(選挙期間の前に選挙運動をすることで、法律で禁じられている)にあたる可能性も指摘されています。


乱立を防ぐ効果

実在する「供託金を求めることによるメリット」として考えられるのは、乱立の防止だけです。これには「死票を減らす目的」と「候補者数の多すぎる状態を防ぐ目的」の2つが考えられます。


死票とは、落選した人に投じられた票のことで、普通は選挙区から選出される議員の数が少ない選挙制度ほど多くなります。衆議院選挙では各選挙区で1人しか当選しないので、党派別の得票数と議席数に大きな違ってしまうことが指摘されています。死票を減らすためには、選挙区から複数の当選者を出す中選挙区制や移譲式(複数の候補者名を記したり、候補者に順位を付けたりして投票する方式)の導入が解決策になります。


選挙供託金制度の廃止や代替に関係するのは、「候補者の多すぎる状態を防ぐ目的」で、例えば小選挙区に何十人もが立候補して選挙や選挙事務が繁雑になることを防ごうということです。


代替の方法

これまで供託金による立候補の制限を是正する方法として、「廃止」のほかに「減額」や「署名による代替」が提案されてきました。しかし、減額では違憲性を排除することにはなりませんし、署名による代替では、組織の支援を受ける候補者が不当に有利になり、政治思想や利権等による明確な意図を持つグループの人に、新たな候補者が限られてしまうおそれがあります。また、政党で候補者を選ぶ予備選を行うという提案もありましたが、行われていません。


普通選挙や憲法の理念、又は規定に沿って国民の参政権を保障するためには、乱立を防ぎながらも自由な被選挙権が認めなければならなりません。公論府は、公論議員が国会議員の選挙に立候補するときに、一定の条件の下で供託金を免除されることができる特典を与えることで、供託金による制限を代替することができます。乱立を防止する制限が、候補者になろうとする者と有権者の関係のみによって行われるようになります。